「王羲之」観てきました。

 東京で新奇な集まりがあると聞いて、物見遊山で出かけたら、たいしたことない内容で、早々に退出して、飛行機まで時間があって、どうすっぺか、と江戸の冬空を眺めていたら、「そうそう、王羲之、王羲之。」と思い出して、上野に行ってきました。

 「書を芸術にした男」とたいそうな謳い文句で、まあ、書聖とあがめられる御仁だから、その通りなのかもしれませんが、実は僕はよくわからんのです。蘭亭序という彼の最高傑作は唐の太宗が手に入れて、その頃の書家達に臨書させて、本物は秘匿したまま、どっかに行っちまったか、焼けたか、なんかでたぶんこの世にはない。で、蘭亭、蘭亭と「書」に少しでも親しむものは、もう至上の宝物の様に言うわけですが、その蘭亭は王羲之が書いたものではないわけだ。まあ、そういう事情は抜きにして、魅力的な書であることはその通り。だけども、僕はそんなにスゴイんか、と思っているのです。あまりまじめに臨書したことがないから、そのスゴサがわからんのだろうな。僕がこの蘭亭序で「はあ、こりゃたいしたもんだ。」と思ったのは、その細字の行書をばかでかく引き延ばして、博物館の壁に掲げているのを観たときです。これだけ引き延ばしても、その書の形がびくともしていない。これはスゴイと思いました。だいたい、小さく書いて、なんとか字形をまとめても、すこし拡大したら目も当てられない、というのがほとんどでしょう。ちょっとしたバランスのずれや、線や点の曖昧さは、小さく書かれてあると、見えにくいわけで、ごまかされちゃうわけです。要するに引き延ばすと、粗もでっかくなるというわけ。ところが、この王羲之の蘭亭序を臨書した作品は、拡大コピーという近代技術にもびくともしない。これにはぶったまげた。ある「完璧」なんでしょう。それを世の書家や書の愛好家達は好んで身につけようとするんでしょうね。ひとつには。

 国立博物館の王羲之や王羲之を習った書家達の名品を観た後で、まだ時間があったので、鶯谷まで行って「書道博物館」に行って来ました。鶯谷のなにやら怪しい宿泊施設街の間を抜けて、なんと正岡子規住居跡の子規庵のまん前に台東区立書道博物館はありました。中村不折創設のこの博物館は一度行ってみたかったんです。上野の博物館には比べようがない規模ですが、僕はこちらの展示の方が良かったです。人もいないしね。

 そうそう、王羲之という人はなかなか人間らしい人物で、真珠が好きだったとか、その真珠がなくなったのを居合わせた親友の僧侶のせいにして絶交状態になったとか、五石散という漢方薬を好んで飲んでいたとか、ミニ知識はおもしろかったね。五石散は高揚させる作用が強い薬で、飲んだ後に散歩して心身を発揚させないと危ない薬だったそうで、「散歩」の由来はここにあるとかなんとか。皆さん、ご存じでしたか?僕はちーともしらなんだ。

コメントをお書きください

コメント: 8
  • #1

    瑠璃 (土曜日, 16 2月 2013 01:12)

    私も8歳から24歳くらいまで書道習っていましたが、今はすっかり…。
    家に書道技法講座という本の、王羲之の蘭亭叙があるんですが。
    筆の運びだけに集中出来るのは大切な時間ですね。

  • #2

    ヒラタミチヒコ (月曜日, 18 2月 2013 13:13)

    僕は書道教室に通ったことは、大学時代に1年ほど行っただけで、他はありません。その先生には楷書の基本を習って、大変ありがたかったです。高校時代は書道しかしていませんでしたが。ですから、ほとんど我流なんです。ですが、まあ、最近マスコミで重宝されている方々よりは、筆が使えるとは思ってますがねえ。

  • #3

    瑠璃 (月曜日, 18 2月 2013 17:02)

    ギャラリーの中に私の好きな五言絶句があったので、コメントしました。高校時代の選択授業では、篆刻したり書の歴史習ったり楽しかったです。
    街中のフォントやデザイン、気になりますね~。

  • #4

    ヒラタミチヒコ (月曜日, 18 2月 2013 23:50)

    ギャラリーも観てくださってありがとうございます。このギャラリーを作りたかったから、HPを立ち上げたようなもんです。五言絶句は于武陵の「君に勧む金屈巵」ですか?井伏鱒二の訳詩がいいですよね。あれを、別にアレンジしていつか書いてみたいと思いますが、なかなか。

  • #5

    瑠璃 (火曜日, 19 2月 2013 13:29)

    そうです!サヨナラダケガジンセイダ。名訳ですよね。

  • #6

    ヒラタミチヒコ (火曜日, 19 2月 2013 18:01)

    漢詩には別れに際しての名吟が多いですね。西の方陽関を出ずれば故人無からん、とか故人西の方黄鶴樓を辞し、煙花三月揚州に下る、とか詩句そのものの立ち姿がいいですよね。書くとなるとなんだか情けなくなるような字しか書けないわけで・・・・。

  • #7

    瑠璃 (火曜日, 19 2月 2013 22:05)

    先生は漢詩よくご存じですね。知識欲が高まってきました!

  • #8

    ヒラタミチヒコ (水曜日, 20 2月 2013 23:09)

    いえいえ、こーこーの教科書レベルです。漢詩なんだから、中国語で詠んでもらったら、さぞや美しいだろうと、中国の方に声に出して詠んでもらったことがあるけれど、あんまりわからなかった。そりゃ中国語知らないんだから、あたりまえですがね。自分で勉強して、詠まなきゃねえ。