「おとこの秘図」を読んだ。

 葉室麟作「花や散るらん」をほとんど同時に読み始めた。「花や・・」を読み始めて、数日して講演に出かけて、「花や・・」を出張鞄に入れ忘れて、空港で題名に惹かれて買って読み始めた。偶然に同じ時代の物語。時は元禄、徳川の世は安泰、文化爛熟の江戸、忠臣蔵の騒動が起こったころの話である。もっとも、「おとこの・・」方は綱吉から八代将軍の吉宗が死んだ後まで続く大河小説だけれども。

 池波正太郎の本ははじめて読んだが、面白いね。語りが独特で「みなさん、ご存じかね?その頃はこんな風だったんですぞ。」と言った弁士のような雰囲気がある。もっとも、この本だけかも知れないけれど。文庫3巻の大作を一気に読んじゃった。

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 この物語の特徴なのか、池波正太郎の特徴なのか、知らないけれど、人が死ぬ場面、臨終の場面の描写が表現はなんですが、「活き活き」としている。死に逝く人、それを看取る人、取り巻く人たちの息づかいや取り乱しや神妙な鎮まりや、そこに過去の物語が凝縮していく有様が、読み手にぐっと迫ってくる。こういう語りには初めて出会いました。「おとこの秘図」はひとりの旗本の一生を軸に、個人と社会と歴史の織りなす絵巻を綴った話。最後に池大雅が登場するとは、思いもしませんで、主人公と一緒に「驚愕」しつつ読了しました。