仙台で。

佐藤忠良記念館の一室、薄いクリーム色の壁に映し出されたその人影に釘付けになった、とは言い過ぎかもしれないが、小さく息を呑んだのは確かだ。その人影は、壁から少し離れておかれた女性の座像、「帽子・夏」と題された有名な彫刻にやや斜めからライトがあたって現れたものだった。彼女は彫刻と同じようにつばの広い帽子をかぶって座っていた。夏の風に吹かれて、帽子をかぶって少しうつむいている女性。パンツの短めの裾に風がそよいでいるのが見える。裾からはみ出して、つま先立つ足から健康な歌が聞こえるようだ。影だけれど、その人は今にも動き出して、椅子から立ち上がり、いきいきとした声で何かを言うのではないか。今日、生きていることの肌に沁み込むような実感、不安と期待が入り交じる明日への眼差し。僕は本気でその影の彼女に名前を訊いてみたい衝動に駆られて壁に近寄っていった。

 影には肌があり、臭いがあり、鼓動があった。親しげな声をかけてくれることが分かっていながら、それが永久に訪れない時間の中で、「あなたは、、、」と声にならない声が胸の辺りで小さな渦になっていた。

 そんな「影」があるなどと、知っているはずもない。佐藤忠良記念館があることさえ、行ってみてはじめて知ったくらいだ。時間つぶしにふと立ち寄った宮城県美術館での邂逅だった。

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コメント: 2
  • #1

    キャサリン (日曜日, 29 3月 2015 21:26)

    お久しぶりです。
    佐藤忠良氏には、佐藤オリエさんという女優の娘さんがいましたよね。寅さんの第2作に出ていました。
    うれしい桜の季節が始まりました。
    本日は日曜ながら、午後雨の予報だったの遠出ではせず、柴犬の散歩で、石神井川沿いの桜並木を楽しみました。7部咲きでさわやかなカンジでした。どの桜の木も、川面に向かって大きな枝を思い切り伸ばして花房をたくさんつけています。満開になると、川面が花で埋め尽くされて、見事なながめになります。
    明日は、仕事の帰り、夕方、メトロ市ヶ谷駅でおり、飯田橋駅までの外堀公園の桜並木の下を歩いてくる予定。
    元気が残っていれば、法政大学の脇から、靖国神社の中を通り、千鳥が淵を廻ってくるけど、そこまではちょと無理そう。来週中になんとか、このコースをたどる予定です。上野公園にも行くかも。
    桜が咲くと元気が出てくる、一般的日本人の私です。ではまた~。

  • #2

    どさんこ (火曜日, 21 4月 2015 20:44)

    仙台で を読み懐かしかったです。忠良さんの作品が好きで私もゆきました。館を出た時のハナミズキの花や周りの緑が美しくてそれからウン10年後3年居住。冬は意外とさむかった。今は九州で満足です。